東京女子医科大学先端生命医科学研究所訪問
2007年7月30日に東京女子医大学の先端生命医科学研究所を訪問し、江上美芽客員教授と大橋一夫特任准教授とお話をする機会に恵まれました。初めてお会いする江上教授は、とても上品で清楚な方なのですが、ひとたび研究所の話になると内に秘めた情熱が迸るように話をされ、聞いていた私も時間を忘れてお話に引き込まれました。
さて本研究所は、再生医療本格化のための最先端技術融合拠点たることを理念とし、その理念の基、大きく、先端工学外科学、遺伝子医学、代用臓器学、再生医工学、の4つの分野に集中し、臨床応用に直結した研究が行われています。訪問時現在メンバー構成は、教員 27名(医歯系15名 理工系11名 文系1名)、ポスドク9名、職員15名、大学院生約30名、外研生約50名、海外留学生4名となっています。
今回の訪問で特に私が注目したいのが
- 大橋准教授が最近世界で最初に成功した機能的人工肝臓の皮下における創出
- 私立大学の自由度を最大限に生かして1969年に開始された非常にユニークなバイオメディカル・カリキュラム
- 早稲田大学との医理工学連携融合施
の3つです。以下でこれらの3つの話題をお話ししたいと思います。
機能的人工肝臓の皮下における創出
まず大橋准教授の研究ですが、肝組織工学の第一人者である大橋准教授は、世界をリードする肝臓作製技術の開発を続けており、細胞シート工学を応用することにより肝細胞で構成される肝細胞シートを作製し、それらを皮下に貼布することにより、3次元的な機能的人工肝臓の作出に成功しました。本成果は2007年7月号Nature Medicine誌に発表されています。
温度応答性高分子を固定した特殊培養皿を用いて細胞培養を行うと、培養温度を15分間20度に下げることで、培養皿から細胞をシート状組織として回収できます。この技術は東京女子医大の先端生命医科学研究所所長である岡野光夫教授らが開発した日本発のオリジナル技術です。このシート工学技術により、肝細胞の相互間に微細胆管等の機能的接着のある肝細胞シートを作製できます。皮下部位にあらかじめ血管網を構築した後に、あたかも湿布薬のように肝細胞シートを皮下に貼るだけで、シート1枚で2次元的な人工肝臓が形成されます。細胞シートを4枚重ねて貼る事により3次元の人工肝臓の形成にも成功しました。マウスの実験で200日以上肝臓組織は機能し、薬剤の取り込みや代謝を行うことが確認されました。再生して増えるという肝臓独特の能力もあるといいます。従来の組織工学では、生体にとって異物となる生分解性高分子等をスキャホールドとして用いる必要がありましたが、本技術は肝細胞のみから肝臓を創る画期的な技術と評価されているとの事です。培養時に遺伝子修飾を加えることも容易であり、新しい遺伝子治療法としても注目されそうです。
肝臓を創るという肝組織工学は肝臓病治療の次世代医療として期待されている分野です。大橋准教授は、「“第二の肝臓を創る“という肝組織工学は、ロマンにあふれる開発プロジェクト。しかし、今この時点においても、現存治療では救命できず、命を落としている患者さんが世界中にたくさんいるという現実を背負っており、ゆっくりとはしていられない。アイデアと技術を結集する必要がある」と話しています。先端生命医科学研究所では、肝臓の他に、心臓、角膜、網膜、肺、食道、膀胱、歯根膜などの組織再生を、細胞単位から構築するユニークな取り組みが行われていることを付記しておきます。
バイオメディカル・カリキュラム
次にバイオメディカル・カリキュラムですが、これは専門の医学教育を受けたことのない医療機器開発者や医薬品開発者をはじめとする医療産業従事者を主たる対象者とした1年間にわたる卒後教育カリキュラムです。本カリキュラムは各方面から高い評価を得ており、過去38年間に1,500名を越す方々がカリキュラムを修了し、そこで得た知識と経験を生かして社会で活躍されています。
参加者は、基礎医学講座はもちろんのこと、その座学に終始するのではなく、実際の人体解剖実習、手術室における実際の手術を最初から最後まで見学するなど実際の臨床の場面に立ち会うことになります。
また、本カリキュラム修了生を母体として、卒後教育を行うとともに、日本の未来医学・未来医療について学際的に幅広く考察していく知識集団として、1978年1月に未来医学研究会が発足しました。会員数1,682名(2006年1月4日現在)、年一回の総会、年1回の会誌”未来医学”の発行等の活動を行っています。
早稲田大学との医理工学連携融合施設
もう一つ忘れてはならないのが、2008年4月開所を目標に建設されている東京女子医科大学—早稲田大学連携の医理工学連携融合施設です。これは、スタンフォード大学で言えばBio-Xプログラム(http://biox.stanford.edu/)、あるいはカリフォルニア州立大学の内、シリコンバレー周辺に位置するバークレー、サンフランシスコ、サンタクルーズ校の3校連携によるQB3: California Institute for Quantitative Biosciences(http://www.qb3.org/)と同様に、これまでの日本の旧弊な縦割り組織とは一線を画したより有機的で効果的な医理工連携の実践の場を提供し、基礎バイオ医学研究から臨床までの学際研究を強力に推し進めることを目指しています。日本における新たな学際研究の先導者として大いに発展し指導力を発揮することを期待して見守りたいと思います。
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先端生命医科学研究所が取り組んでいる研究に関する主要論文
- 角膜再生:Corneal reconstruction with tissue-engineered cell sheets composed of autologous oral mucosal epithelium. N Engl J Med 351: 1187-1196, 2004
- 肝組織再生:Engineering functional two- and three-dimensional liver systems in vivo using hepatic tissue sheets. Nature Med 13: 880-885, 2007
- 心筋再生:Pulsatile myocardial tubes fabricated with cell sheet engineering. Circulation 114: I-87-93, 2006.
- バイオマテリアル技術:On-chip cell migration assay using microfluidic channels. Biomaterials. 28:4017-4022, 2007.
- インテリジェント手術:New radiofrequency coil integrated with a stereotactic frame for intraoperative MRI-controlled stereotactically guided brain surgery. Stereotact Funct Neurosurg. 84:136-141, 2006.
- バイオインフォーマティックス:What’s in season for rheumatoid arthritis patients? Seasonal fluctuations in disease activity. Rheumatology. 46:846-848, 2007.
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