主観的認識を客観的に観測 ー 人・コンピュータインターフェース

脳神経科学の権威ある学術雑誌Neuron誌の2008年12月11日号に、visual cortex(視覚野)の活動をMRIで観測することにより実際にどのような画像を認識しているかを客観的に観測する方法を使った、非常に興味深い実験が報告されていました。(Y. Miyawaki, et. al., “Visual Image Reconstruction from Human Brain Activity using a Combination of Multiscale Local Image Decoders”, Neuron 60, 915–929, December 11, 2008; DOI 10.1016/j.neuron.2008.11.004、またScribdのサイトで全文が読めます)

この報告は、国際電気通信基礎技術研究所・認知神経科学研究室の宮脇陽一氏らのチームが開発した測定・解析方法に基づいて行われた実験報告で、特定の図柄や文字を見せたときの脳の視覚野の反応をfMRI(functional magnetic resonance imaging:機能的磁気共鳴画像法)により測定し、測定されたfMRI画像を再構成アルゴリズムによって解析し、実際に見ている画像をコンピュータ上に再構成する事に成功したとの報告です。

四角、十字、ペケなどの図形の再構成はもとより、「n」「e」「u」「r」「o」「n」と言う文字を見せた際に、ある程度の精度で実際に「「n」「e」「u」「r」「o」「n」と再構成されている例が報告されており、これは驚きでした(参照:NewScientistの記事)。さらには、実際の画像再構成を時間的に追ったビデオがYouTubeにアップされています。

彼らの再構成アルゴリズムの要点の一つにModular Decoding(モジュール解読法)があります。簡単に言うと、複雑な視覚認識情報を、測定単位での各知覚パターンにモジュール化し、その各モジュールを予め最適化させた重み係数を使って線形に足し合わせ、最終的に総体としての視覚認識情報を再構成すると言う方法です。これは典型的な要素還元論的方法ですが、複雑なプロセスを要素に分解してそれを足し併せて再構成するというこのアルゴリズムは、種々の分野での応用には事欠かないでしょう。また、ここで彼らの再構成アルゴリズムでは線形性を仮定していますが、著者達もしっかりと指摘している様に実際の脳内活動は非線形ですからその点を改良する必要があるでしょう。しかしながら、線形性を仮定したいわば初期段階のアルゴリズムでもこれほどの結果を出せるのですから、このモジュール解読法の今後の発展が楽しみです。

著者達も指摘しているように興味深い応用例としては、ただ単に意識上で図形や文字を想起しただけでも同じように再構成できるかどうかと言う実験があります。もしこれが可能になれば、将来、例えば何らかの疾患で話せなかったり上半身を動かせない人が、自分の意識を表すことも可能になります。さらには、現時点では自分の考えを話したり文字で書いたりしなければ、それらを他者が分かるように表す方法はありませんが、もしただ単に頭で想起するだけで自分の考えを表現できる様になれば、人間の知的活動の可能性が飛躍的に拡大すると期待されます。想起する速度は、実際にそれを言葉に発したり書いたりする速度よりも遙かに早いですから。ただし、いつもMRIの中に入って生活することはできませんから、MRIと同等の機能を持つ超小型測定装置が必要になりますが、技術的課題さえ克服されればこの様な夢のような話も実現すると期待しても良いのではないでしょうか。

「原理的に可能なことは実現する」、言い換えれば「およそ人間に想像できることであれば、物理法則に反しない限り、どれほど技術的に困難であっても何れは実現する」これが私の信念です。そしてなによりも重要なのがそれを人間の幸せに繋がるように応用することが必須です。

しかしながら、自分の頭の中が他者に筒抜けになってしまうのは困りものですし、逆に外部からのインプットによりマインド・コントロールされるような事になるのだけは防がねばなりません。

なお、本研究に対して、理論物理学者であるMichio Kaku氏の興味深いテレビインタビューがYou Tubeにアップされています。

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