Archive for February 2009

JBCセミナー「バイオマスが拓く21世紀のエネルギー」に参加して

昨日(2009年2月20日)、シリコンバレーにおける日系のバイオ関係者の集まりであるJapan Bio Community(JBC)主催による、エコシステム経済研究所のIsao UENO氏を招いての「バイオマスが拓く21世紀のエネルギー – 環境調和型材料変換システム”MACS”を用いたバイオマス燃料化技術」フォーラムに参加してきました。

要旨をここに引用しておきます。

バイオマスが拓く21世紀のエネルギーは、自然を利用する究極のエネルギーであり、地球温暖化の元凶である二酸化炭素の排出を、ゼロにできるものです。このバイオマス・エネルギーの最大の特長は、「太陽と同じ」ということで、太陽光と水と二酸化炭素を資源に、無限循環的再生可能に栽培で作り続けることができます。また、バイオマスの埋蔵量は、大気中に二酸化炭素を増やすことなく、世界の全エネルギーの7倍もあります。

バイオマスとはBio「生物」とMass「集まった量」の合成語で、一般的には「生物由来の再生可能な有機性資源」の中で、化石資源を除き、具体的には草本類や木本類全般と食品廃棄物、家畜の排泄物などを指します。バイオエタノールはトウモロコシのような食料から作ることでよく知られていますが、食料を燃料にするのは、人類文化の冒涜ではないでしょうか。一方、同様な用途に使うことができるバイオメタノールは、非食料の草木などのバイオマスから、短時間、小規模で、高効率に作る技術によって、明日からでも使うことができます。

今セミナーでは、バイオマス・エネルギーを理解しながら、地球環境問題への解決と、事業性の両方に利益をもたらすと期待される有望な技術『環境調和型材料変換システムとそのバイオメタノールの燃料化技術』について紹介します。

この要旨から素晴らしい技術の話が聞けると期待に胸をふくらませて参加したのですが、実際にセミナーが始まってみると最初のほぼ8割が地球温暖化に対する警告と自著の宣伝に終始し、なかなか要の『環境調和型材料変換システム(MACS)』の説明をしてもらえません。忍耐強く待った後、やっとMACSの説明に入ったと思ったら、何のことはない『MACSとは、有機廃棄物を摂氏200度、20気圧の水で処理することにより、メタノール等の製造に適した物質に分解する技術』と簡単に述べられただけでした。全くの肩すかしです。

有機廃棄物、特に植物由来のバイオマスは、分解が非常に難しいセルロースヘミセルロースリグニンなどの強固に結びついた繊維質高分子が多くを占めており、それがバイオマスの有効利用を妨げてきた大きな理由です。Wikipediaから引用しますが、例えば、セルロースの分解には硫酸や塩酸が用いられるほか、酵素のセルラーゼが用いられる。リグニンと結合したセルロースは単独状態よりもさらに化学的に安定であるため、分解は非常に困難であり、工業的な利用を妨げている(Wikipediaより)であり、多くの研究者が過去何十年にもわたって、効果的な分解法の研究・開発を行ってきているのですが、その多くが研究の域を脱しておらず、安価な大量処理の実現にはまだまだ時間がかかるというのがこれまでの認識でした。

それを、摂氏200度、20気圧の水で処理するMACS技術により、いとも簡単に実現できると言うのですから、これが本当ならば人類にとって非常に大きな福音になります。

ですので、このMACSと言う技術の詳細を知りたいと思うのは当然のことなのですが、そこを完全にはぐらかされました。非常に残念です。

さらに、分解生成物がどういう物質なのかの質問に対しても、ただ単に分解された物質としか述べず、それが低分子化されたリグニンなのか、あるいは多糖、オリゴ糖、単糖などの糖なのか、それとも有機酸なのかも不明でした。また、窒素などの他の物質の除去方法も具体的な説明はありませんでした。

バイオマスを最大限に有効利用することによって、人類のエネルギー源を限りなくカーボンニュートラルに近い状態に持って行くとの理念は非常にすばらしく、その理念に対しては諸手を挙げて賛成しますが、このように技術やデータを隠されてしまうと少々疑問の念がわき起こったと言うのが正直な所です。

ご参考までに、セルロース、ヘミセルロース、リグニンの分解は、大きく分けて

  • 物理的分解
  • 化学的分解
  • 生物的分解

の三通りの方法、およびそれらを組み合わせた方法があり、それぞれ実用化に向けた研究がなされています。

例えば京都大学の坂研究室が超臨界水を用いた分解法を研究しています。それによると

  • 微結晶セルロースを流通型超臨界水処理装置を用いて380℃、40MPa(395気圧)の条件下で超臨界水処理すると、0.12秒の処理により約75%の収率で多糖、オリゴ糖、単糖などの糖類が得られる
  • リグノセルロースは超臨界水処理(>374℃、>22.1MPa(218気圧)) により分解され、数種類の有機酸(ギ酸、酢酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸)にまで分解される。

との由です。

どうもMACS技術はこの超臨界水を用いた分解法と同類の技術(ただし圧力が20気圧と臨界状態の218気圧以上に比べて約10分の1とかなり低い気圧なので超臨界状態ではない。おそらく亜臨界状態と思われる)の様ですが、UENO氏が技術の詳細を明らかにしてくれないので、残念ながら確認はできません。

化学的分解法としては、硫酸を使った加水分解法などがありますし、生物的な分解法としては、リグニン分解能を有する白色腐朽菌を用いた処理法や、2006年5月19日の読売新聞で紹介されている大成建設の取り組みなどがあります。

これらはいづれにせよ、コストダウンが最大の課題となっています。

とにかく、化石燃料への依存度を下げると言う理念には皆が賛同できますし、それを実現させようとする努力も尊いものです。ただ、それが秘密主義に走ってしまってはいけません。本物なら正々堂々と王道を行くべしです。また、UENO氏の公演中、いたずらに危機感を煽る表現の多用や自著の宣伝の繰り返しに加えて、自己矛盾を来す部分が何点か見受けられましたが、それらが彼に対する信頼を失墜させる一要因になったことは間違いないでしょう。非常に残念です。

[補遺]
東北大学未来科学技術共同研究センター阿部敬悦博士よりご教示いただいた木質系バイオマスからバイオエタノールなどのバイオ燃料を製造する工程を紹介します。

原料:木質系バイオマスは、セルロース、ヘミセルロース、リグニンから構成されています。セルロースは6炭糖のグルコースのβ-1,4-結合ポリマーであり、ヘミセルロースは、セルロース成分にさらに5炭糖のキシロースやアラビノースを含んだポリマーとなります。リグニンは、フェノール性のポリマー樹脂で、セルロース、ヘミセルロースの木質間を充填しています。

製造プロセスは以下の3プロセスです。

  1. 原料前処理糖化工程ー物理的(熱、臨界点、マイクロウエーブ)、化学的(酸、アルカリ)による糖液の調整→さらに木質ポリマー分解酵素のセルラーゼ、ヘミセルラーゼを組み合わせたシステムが世界的に主流になりつつある(現在は、原料前処理、酵素生産、糖化が別のプロセスになったSimultaneous saccharification and fermentation process) 。将来的には酵素生産と発酵を同時に行うConsolidated bioprocessを目指している。
  2. <この工程のコストダウンが最大の課題>

  3. 2)糖質のエタノール変換:細菌、酵母類に遺伝子組み換えを施し、エタノール生産能を増強したもの、グルコース以外の糖(ヘミセウロース由来の5炭糖ーキシロース、アラビノース等)の発酵性を増強した微生物の利用が推進されている。
  4. <5炭糖発酵能に優れた微生物育種、耐酸性(原料前処理への対応)、耐塩性(原料前処理後の中和塩への対応)、エタノール耐性育種)が課題>

  5. エタノール分離工程:通常は蒸留、場合によっては逆浸透

バイオマス・ニッポン総合戦略などの行程表によれば、2017年あたりまでに、実証プラントによる実証実用化試験を行って、それ以降に生産拡大を目指すとされています。

米国では、エネルギー省のグラントで、NOVOZYME USAが、大型の実証プラント試験を行っています。

2型糖尿病患者に対する低グリセミック指数食の効用

少々旧聞に属しますが、米国医学雑誌JAMA(Journal of American Medical Association)の2008年12月17日号で報告された、2型糖尿病患者に対する低グリセミック指数食と高穀物繊維食の効果を比較した臨床試験を紹介します(”Effect of a Low-Glycemic Index or a High-Cereal Fiber Diet on Type 2 Diabetes – Randomized Trial“, D.J.A. Jenkins et. al.)。

カナダのトロント大学のDavid J. A. Jenkins医師らが中心となり、過去1〜2ヶ月の血糖値の指標とされるヘモグロビンA1Cが6.5%から8.0%の範囲にある2型糖尿病患者に対して、低グリセミック指数食グループと、高穀物繊維食グループの2つのグループに無作為に分け、治療方針を評価する研究(Intention-to-treat analysis)が実施されました。2,200人のボランティアの応募者から、ヘモグロビンA1C値に加えて、年齢、性別、BMIなどを考慮して最終的に210人が選ばれ、本臨床試験に参加することになりました。本研究では、各グループの患者にに対して規定の食事を6ヶ月間続けてもらい、第1指標としてのヘモグロビンA1C、第2指標としての空腹時血糖値と心血管イベントの主要リスクファクター、およびC反応性タンパク、体重、BMIなどが4週間毎に24週間測定されました。

結果
低グリセミック指数食グループではヘモグロビンA1Cが0.5±0.11ポイント減少、HDLコレステロール値が1.7±0.9mg/dL増加と言う結果が得られました(以下、±エラーはすべて95%信頼区間)。一方、高穀物繊維食グループではHbA1cは0.18±0.11ポイント減少、HDLコレステロール値は0.2±0.7mg/dL減少(ただし、後者はエラーが大きく実際には有意な変化は無しと捉えるべきでしょう)と言う結果でした。

ここで注目しておきたいデータが、今回の研究の主要指標では無いのですが、近年、心血管イベントの強力なマーカーとして注目されているC反応性タンパク(C-Reactive Protein)の変化です。

炎症マーカーであるこのC反応性タンパクが、低グリセミック指数食グループでは4.6mg/Lから3.0mg/Lに減少(1.6±1.3mg/dL, 35%の減少)、高穀物繊維食グループでも4.6mg/dLから2.8mg/dLに減少(1.8+2.1-2.2mg/L, 39%の減少)と、共に減少している点です(ただし、高穀物繊維食グループではエラーが大きく有意とは言えませんが)。

まとめますと、今回の2型糖尿病患者に対しては、低グリセミック指数食の方が高穀物繊維食より効果的に、ヘモグロビンA1Cを下げ、HDLコレステロール値を上げ、C反応性タンパクを下げると言うことです。つまり、より良い血糖値コントロールと同時に心血管イベントのリスクを下げる効果が得られる(可能性がある)と言うことです。

低グリセミック指数食は、そもそもの定義からして同じ炭水化物でも血糖値上昇の度合いが低い食事ですから、その機序からしてヘモグロビンA1Cを下げる効果があることはごく自然に理解できますが、HDLコレステロール値を上げ、C反応性タンパクを下げる効果が見られたことは注目に値します。実は、低グリセミック指数食が、HDLコレステロール値を上げ [Brand-Miller J et.al. Diabetes Care. 2003;26(8):2261-2267], [Ford ES et.al. Arch Intern Med. 2001;161(4):572-576]、C反応性タンパクを下げる効果 [Liu S et.al. Am J Clin Nutr. 2002;75(3):492-498], [Wolever TMS et.al. Am J Clin Nutr. 2008;87(1):114-125] が見られることは以前の研究でも報告されていました。

いづれにせよ、2型糖尿病患者にとって低グリセミック指数食事により、より良い血糖値コントロールと同時に心血管イベントのリスクを下げる効果が得られる(可能性がある)と言うことは朗報であることは間違いないでしょう。

さて、ここまでが現在の医学研究において多くの研究者が行っている統計処理データだけを見て得られる結論ですが、私としてはその先を研究したいと言う気持ちがわき起こってきます。それを以下で説明します。

考察
まず、統計処理する前の一人一人の患者のデータを基に、A: 大きな変化、B: 平均に近い変化、あるいは、C: ほとんど変化の見られない患者のグループ、の3グループに分け、さらに詳細なデータ解析を行えばどのような因子がその変化の有る無しと相関関係があるかを知ることができると期待できます。そして相関関係の見つかった因子間で、因果関係を究明する研究を立案するのです。ただその際に、重要と思われる各患者の遺伝子データも取っておく必要があります。この実現の障壁になるのが、集団統計処理データに立脚しすぎてしまっている現代医学界における固定観念と、現在の技術ではまだまだ高価な遺伝子データ取得費用の2つでしょう。後者は技術的問題ですので、技術さえ進歩すれば解決できる問題ですのでここでは特に議論しませんが、前者は「集団統計処理データに始まり、集団統計処理データに終わる」との固定観念に支配されている現代医療界の心理的かつ体制的問題ですので、その打破には巨大なエネルギーが必要です。私の力は微力ですが、提言を繰り返すことによりそのエネルギーのほんの一旦だけでも担えればと思っております。

ただ単なる臨床試験に留まるのではなく、その臨床試験を、得られた結果に基づき生命現象の機序を解明するさらなる研究のきっかけとしてとらえる事により、一つの臨床試験がより実りある多くの研究に繋がる可能性があるのです。

用語解説

  • グリセミック指数
    食品の炭水化物50グラムを摂取した際の血糖値上昇の度合いを、ブドウ糖を100とした場合の相対値で表すとされる。つまりグリセミック指数が低ければ低いほど、食後の血糖値の上昇を抑えられます。

  • 低グリセミック指数食
    ふすま(小麦を粉にする時にできる皮のくず:wheat bran)入りのライ麦の黒パン、quinoa(キノア:アンデス地方で栽培される雑穀で、他の雑穀に比べてタンパク質と不飽和脂肪酸を多く含み、糖質が少ない)、flaxseed(アマニ)、オートミール、パスタ、豆類、グリーンピース、レンズ豆、ナッツ類など
  • 高穀物繊維食
    無精白の全粒パン、全粒シリアル、玄米、皮つきのジャガイモなど
  • ヘモグロビンA1C
    HbA1c – glycated hemoglobin A1c:過去1〜2ヶ月の血糖値の指標とされる。HbA1cが6.5%以上の場合、糖尿病と診断する。

参考文献