Archive for 26th March 2010

「大往生の条件」色平 哲郎

本書のタイトルの「大往生の条件」からすると、一般人が「大往生」するにはどうすれば良いかを説いていると思えますが、実際には一般人向けと言うよりは、医学・医療の世界を目指している若者に向けた書と捉えた方がより良く本書の内容を表していると思います。

感染症などの急性疾患に対しては十把一絡げ的な対処法によって絶大な威力を発揮した西洋医療も、ガン、心疾患、糖尿病などのいわば慢性疾患に対しては画一的な治療法では完治が望めない場合が多々あると言う現実に直面しています。

このような現実を目の当たりにしてきた著者は、長年、僻地医療に携わってきた経験を基に、『人間が人間として人間の世話をする「ケア」である医療』と言う医療の原点に立ち返ることにより、今後の医療の在り方を問いただしています。

その上で、「大往生=畳のうえで死ぬ」ための条件として
1)大きな病気をしないこと(一病息災)、
2)子や孫、隣人から尊敬されるお年寄りであること、
3)年寄りを尊敬する、よい子や孫を育てていること、
4)在宅で看取れる人的、物的環境が整っていること、
の4つを挙げています。1は日頃から健康に留意してればある程度までは可能ですが、個人の力ではどうしようも無い部分もあります。2と3は個人の心がけ次第です。4に関しては個人の問題と言うよりも社会全体の問題と言えるでしょう。

医学・医療の世界を目指している若者に向けた書と述べましたが、もちろん一般人にとっても、大往生を遂げるための日頃からの心構えや、もし自分がなんらかの重篤な病気に罹った場合に、いかに医師に対して自分の意志を伝え、供に治療に取り組み、かつ周囲の人と接していくのか、に関する心の準備をしておく一助となるでしょう。

「天皇論」小林 よしのり

日本人としてのアイデンティティの確立に必ずや一役買うであろう良書です。

漫画と言う手段を通して、「天皇」「皇室」「君が代」「神道」に関して分かりやすくかつ詳細に述べています。恥ずかしながら本書を読んで初めて「天皇」に対する自分の認識が曖昧であったかを思い知らされました。

著者が言わんとすることをまとめると、天皇とは、
1)国内的には、数千年の長きにわたって民間に信仰されてきた「神道」、日本人の精神の根幹を成している「神道」の祭祀を執り行うことを通して、国土と民の安寧を祈る「祭祀王」であり、
2)対外的には日本という立憲君主国家の国事を執り行う「元首」なのです。

また、日本の国歌である「君が代」は、『古今和歌集』に収められた「わが君は 千代にましませ さざれ石の いはほとなりて 苔のむすまで」という長寿を祈る「賀歌(がのうた)」にその源を発し、その後千年以上の長きにわたって庶民によって歌い継がれてきたと言う事実を初めて知りました。さらに、「君」は天皇のような特定の個人を指すのではなく、幅広く自分にとって敬愛すべき相手を意味するのです。つまり、「君が代」は天皇賛歌ではなく、あくまでも敬愛すべき人を称える歌なのですね。

著者が本書で述べていることは、本来なら初等教育において全生徒に対して教えるべき内容でしょう。

ただし、著者自身も本書の中で権威に盲目的に従うことの危険性を説いているように、本書の内容を鵜呑みにするのでなく、批判的に読む事によって、より良く「天皇」を理解できるようになると思います。

小学校高学年、あるいは中学校の副読本としても有用なのではないでしょうか。