Archive for the ‘医学・医療・創薬’ Category.

Merck社がバイオジェネリック薬開発部門の創設を発表

最近7,200人の大々的な雇用削減を発表しリストラを断行している製薬大手のMerck社が、自社の医薬品ポートフォリオを拡充し企業基盤をより堅固なものにするため、新規特許薬以外にfollow-on biologics(biogenerics:バイオジェネリック薬)の研究・開発を推進させるMerck BioVentures創設を2008年12月9日に発表した。これは、2006年に買収したGlycoFi社の持つイースト由来のバイオテック応用タンパク質性医薬品の効果的な開発・製造技術を実用化に応用する試みであり、バイオジェネリック薬分野におけるトップメーカーを目指すための戦略の一環と捉えられている。

具体的には、2012年の上市を目標に貧血治療薬MK-2578が臨床開発段階に入っており、他に少なくとも5つのバイオジェネリック薬を2012年までに最終開発段階に持って行くと、Merck社の上級副社長であるPeter Kim博士は述べている。

今回の発表は、1980年代後半から1990年代初頭にかけて開発された初期のbiopharmaceutical products(バイオテック薬:例えばAmgen社が開発したEpogen[*注参照])の特許期限が切れる時期が目の前に迫っていると言う事実と、特許薬に依存する限りこのような特許切れによる利益の大幅減少の危険性を免れることができない現状で、莫大な開発費のかかる新規特許薬にのみ依存する体制から、新規特許薬と、より安価に開発可能なバイオジェネリック薬の2本立てで今後の製薬分野での競争に勝ち残ろうとする戦略と捉えられる。

また、比較的高価なタンパク質性医薬品に対して、安価なバイオジェネリック薬が供給されれば、医療費の削減にも貢献することが期待されているが、同時に安全性の確認をどう評価するかに関して監督官庁の指針が待たれる。

[注*]Epogen:腎臓透析を受けている患者の慢性的な貧血に対する治療薬。バイオテック企業最大手の米国Amgen社が遺伝子組み換え技術を応用して開発した。有効成分は赤血球の産生を促進するホルモンであるerythropoietin (エイスロポエティン)。

参考文献:

The World Health Report 2000

World Health Organization (WHO:世界保健機関)発行のThe World Health Report 2000のSummaryの最後から抜粋した以下の文節は、内容は言うまでもなく良い英語表現のお手本でもあります。

The World Health Report 2000 aims to stimulate a vigorous debate about better ways of measuring health system performance and thus finding a successful new direction for health systems to follow. By shedding new light on what makes health systems behave in certain ways, WHO also hopes to help policy-makers understand the many complex issues involved, weigh their options, and make wise choices. [World Health Report 2000]

「メタボリックシンドローム」の由来

日経BPセカンドステージで河合勝幸氏が執筆している明るい糖尿病ライフのページに「メタボリックシンドローム」の由来が説明されていました。以下に引用しておきます。

1920年代に心血管障害(心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性の病気)のリスクとして、高血圧や高血糖、高尿酸血症などの一群の症状(シンドローム)があることが報告されていました。1960年代にこれらの症候群に肥満と高脂血症が加えられ、1988年にジェラルド・M・リーベン(Gerald M. Reaven: スタンフォード大学)がこの症候群は基本的にインスリン抵抗性(インスリンが効果的に作用しない)があると説明がつくとして、「シンドローム・X(エックス)」とネーミングしました。-河合勝幸-

参考文献:Reaven GM. Banting lecture 1988. Role of insulin resistance in human disease. Diabetes 1988;37:1595-607. PMID 3056758.

製薬業界の成長期待と医療費削減要求の狭間で – 21世紀のあるべき医療 –

大手コンサルティング会社であるPricewaterhouseCoopers社*の概算によると、平均寿命の延び、高齢化社会、肥満の増加、各国民の収入の増加、地球温暖化**などに伴い、2020年には世界の薬の総売上額が現在の5,200億ドルの2倍以上の1.3兆ドルに達すると予想されています。

製薬業界にとっては受け入れやすいこの成長予想は、翻って医療を受ける国民にとっては単純に考えると薬代が2倍以上になると言うことであり、素直には受け入れ難いものと思われます。もちろん医療には薬だけではなく種々の要素が複雑に絡み合っていますから、単純に薬代が2倍以上になるわけではないですが、製薬業界のこの様な右肩上がりの報告を読む度に疑問がわき上がって来ます。その釈明と言うわけではないのですが、同社のスポークスマンであるFarino氏は、より効果的な薬が開発され、より効果的に病気の予防・治療をすることができれば、たとえそれが高価であっても、実際に症状が悪化した後に施される治療に対する医療費よりも結果として低く抑えることが出来るであろうと述べています。これは、開発された薬が本当に有効であることが前提になります。彼の言葉を実現させるには、製薬企業が真に各個人に最適化され効果的な新薬を開発し、それを最適の投与法で各個人に投与し、一般市場に出回った後もその効果をしっかりとモニターしながら確認することが必要になります。次にその実現に向けての最近の動きを紹介したいと思います。

ポストゲノムのこの21世紀において、我々人類はそのための技術を確立しつつあります。遺伝子に対するゲノミクス(genomics)、RNAに対するトランスクリプトミクス(transcriptomics)、タンパクに対するプロテオミクス(proteomics)、代謝に対するメタボロミクス(metabolomics)などの分野を有機的に統合するのです。いわゆるシステム生物学(Systems Biology)がその統合方法を提供する最有力候補です。その統合技術を基に、各個人のゲノムの情報を出発点とし、各個人の遺伝子の発現度・活性度、体内での種々のタンパクの実際の働き、環境との相互作用などの生体反応に影響を及ぼしうる全ての情報を加味した上で、最適の治療法が施されるような医療、さらに進んでは病気になる前に未然に前病段階を察知し未然に病気を防ぐことが出来るようになるのが医療の理想の形ではないでしょうか。それは同時に、現在大手を振ってまかり通っている杜撰な統計処理に基づいた十把一絡げEBM医療(Evidence Based Medicine)を超越し、各個人に最適化された医療(Personalized Medicine)でもあります。今世紀半ばには、それは必ず実現すると信じています。

20世紀初頭からの物理学の世界における相対論と量子論の発展により、物理学を基盤とする科学、さらにはその科学知見の現実世界への応用としての技術が爆発的に発展し世界を大きく変えたように、21世紀に於いては生命科学が爆発的に発展し人類の健康に大きく貢献することを心から期待しています。人類の叡智を結集すれば決して夢物語では無いと思います。

[脚注]
*世界149ヶ国に14万人の従業員を持つ有数のコンサルティング会社
**地球温暖化により感染症が増加すると仮定

カリフォルニア州の州民皆保険制度案

日本では当たり前と思われている医療に対する国民皆保険制度が、ここ米国においては未だに存在しておらず、民間医療保険の保険料の高さとも相まって、無保険者は全米で4700万人にも上ると言われています。

クリントン大統領時代には、ヒラリー大統領夫人が中心となって国民皆保険制度を含む抜本的医療改革案が議論されたこともありますが、大方の反対から廃案になった経緯もあり、米国に於ける国民皆保険制度実現にはほど遠いと思われていました。ところが、中央集権の色合いが強い日本よりも州による地方分権の進んでいる米国では、この皆保険制度に関して非常に興味深い動きが州から生まれています。その代表的なものがカリフォルニア州のシュワルツネッガー知事が2007年1月8日に提案したカリフォルニア州民に対する皆保険制度案です。

カリフォルニア州では、現在人口の約5分の1に当たる650万人以上の無保険者がいると言われており、平均で日本の3倍近い医療費を支払えないがために医療を受けられない人々が多くいることが問題になっています。カリフォルニア州住民の80%が皆保険制度に賛成であると言う最近の世論調査の結果にも勇気づけられたシュワルツネッガー知事は、この問題を解決するために不法移民をも含めた全州民に対する皆保険制度案を提案しました。この皆保険制度の実現のためには120億ドルの費用が必要だと見積もられていますが、この費用を、雇用主、個人、保険業者、医療提供者で折半することにより実現しようとするものです。その骨子は以下の2点です。

  • 現在医療保険を提供していない10人以上の従業員を持つ雇用主に対して、人件費の4%を州の医療保険共同基金に支払うことを義務づける
  • 保険会社に対して個人の健康状態や病歴を理由に保険加入を断ることを禁止し、かつ総収入の85%を医療サービスに提供することを義務づける

これらにより皆保険制度を実現させようと言うものです。実際に120億ドルもの多額の資金が確保され皆保険制度が実現されるかどうかはまだまだ不透明ですが、保険加入の義務化に踏み切ったマサチューセッツ州や、民主党優位の米国議会における医療改革に対する潮流の変化とともに、このカリフォルニア州の皆保険制度案の流れには今後とも注目していきたいと思います。

素晴らしい医師の話

医療情報を提供しているMedWaveの
http://medwave2.nikkeibp.co.jp/wcs/leaf?CID=onair/medwave/a005/419561
に、素晴らしい医師の話が出てました。
その、一部をここに紹介しておきます。

(以下、転載)

予定日よりも4カ月半早く生まれた私の担当の赤ちゃんの出生体重は、普通の赤ちゃんの10分の1であった。その赤ちゃんが生まれてから、私は夜昼関係なく、曜日関係なく、外来の途中であろうと、真夜中であろうと、3〜4時間おきに起きて様子を見たり血糖を測る生活が続いた。当然休日などない。別に強制されていたわけではない。同じ患者さんを同じ医師がみ続ける方が容態がより把握できるので、自らそうしていただけである。本当に「元気に退院してほしい」という気持ちからそう働いていたと思う。もっともそれができる体力があったからなのだが、忙しい生活であった。労働基準法を守れている小児科医など見たことがない

(以上、転載)

真摯に医療に取り組んでいる医師達に拍手!

医者語

医学書院の教養としての医者語と言う、医者による医者語の解説があります。

これを読んでいると、患者や専門外の人には全く理解できない医師専用カルト言葉を日常的にあやつって悦に入っている、医者の実態の一旦が垣間見られます。

これから医療を目指す人は、これを反面教師とし、誰にでも分かる平易な言葉を使う習慣を付けて欲しいものです。

乳ガン診断におけるデジタル・マンモグラムの有用性が判明

米国の国立ガン研究所 (NCI: National Cancer Institute) 指導の元、新しい技術であるデジタル・マンモグラム (注*) と従来のフィルム・マンモグラムとの乳ガン発見に対する有効性を比較した大規模試験の中間結果が発表されました。

これまでデジタル・マンモグラムには、

  • 放射線被爆量がフィルム・マンモグラムに比べて少ない
  • 診断医が簡単な操作でデジタル画像を調節することによって組織の微少な違いを見分けることが可能になる
  • 撮影された乳房画像データがデジタルデータなのでインターネットを通しての遠隔診断に簡単に応用できる
  • 同一患者の過去データとの比較が簡単
  • コンピュータ支援乳ガン診断システムを簡単に日常検診のワークフローに組み込める

等の技術的利点があることは共通の認識でしたが、臨床的にはその利点が明確ではありませんでした。

デジタル・マンモグラム臨床的な利点 (あるいは欠点) を明確にするために2001年9月から北米の33の医療施設において5万人弱の女性を対象に実施されたDigital Mammographic Imaging Screening Trial (DMIST) と呼ばれるこの大規模試験データから、

  • 50歳未満の女性 (乳房密度によらず)
  • 乳房密度の高い女性 (年齢によらず)
  • 閉経前あるいは閉経前後の女性

の3グループのいずれかに属する女性は、フィルムよりもデジタル・マンモグラムの方が、乳ガン発見に対してより有効であることを示す結果が得られました。逆にこれらのいずれにも属さない女性に対しては、両者に臨床上の診断効率の差は見られませんでした。

この結果は以下の様に解釈されます。一般的に、乳房組織が若い、あるいは乳房密度の高い女性では、ガン組織と乳房の通常組織の画像上の濃淡や外見の違いが判別しにくいのですが、コントラストなどを最適化できるデジタル・マンモグラムを使えば、それらの微妙な違いを強調し判別しやすくすることが可能になります。それ故、上記の様なグループに属する女性では、診断効率があがるのであろうと思われます。

米国では、年間約21万人の女性が乳ガンと診断され、約4万人の女性が乳ガンが原因で亡くなっているという現状があります。女性にとって乳ガンは、皮膚ガンに次いで発症率の高いガンであり、ガン死因の第2位に挙げられています。それ故、乳ガンの早期発見が医療界に於いて火急の案件となっており、本試験の結果に後押しされて、今後は全てのマンモグラム・システムがデジタル・マンモグラムに置き換わっていくことは時間の問題でしょう(ただし、現在のところ北米におけるデジタル・マンモグラムの普及率はまだ8%と低率ですが)。特に乳房密度の高い日本人女性にとってデジタル・マンモグラムの恩恵は欧米人以上に大きいと思われますので、日本での早期の普及を期待したいところです。

この中間結果は、New England Journal of Medicineの2005年9月16日号オンライン版、およびAmerican College of Radiology Imaging Network (ACRIN) の会議にて発表されました。詳細はDMISTのホームページを参照。

[注*] デジタル・マンモグラムとは、乳房のX線画像をレントゲンフィルムに焼き付けるのでは無く、直接コンピュータにデジタル画像データとして取り込むシステムである。今回のDMISTでは、GEメディカルシステム社、富士メディカルシステム社、フィシャー・イメージング社、ホロジック・デジタル社のシステムが使用された。

カリフォルニア州の幹細胞研究

カリフォルニア州は、幹細胞および再生医療に関するバイオ医学研究に対して今後10年間にわたり総計30億ドル(毎年3億ドル)の研究資金を供与するというカリフォルニア州条例71を2004年11月に採択しました。この条例の趣旨に基づいて設立されたCalifornia Institute for Regenerative Medicine (CIRM:カリフォルニア再生医療研究所)の本部が、サンフランシスコに設置されることが2005年5月6日に決定しました。

この30億ドル基金の直接の恩恵を受けるのは、まずはカリフォルニア州立大学やスタンフォード大学などの研究大学および基礎医療研究所などの幹細胞研究者達と考えられます。幹細胞に関する基礎研究が強力に推し進められると同時に、世界中から若い優秀な研究者がカリフォルニア州に集まることが期待されます。これらの研究から派生する新たな知見や技術に加えて、大学から経験を積んだ優秀な研究者が産業界に輩出されるにことの相乗作用により、長期的にはバイオ産業界は全体として大いなる恩恵をうけるでしょう。

スタンフォード大学では、この基金から効果的に研究資金を得るために大学が一丸となり、ガンおよび幹細胞バイオ医療研究所(Institute for Cancer/Stem Cell Biology and Medicine)の統括の元、2005年2月に学際的な再生医療プログラム(Program in Regenerative Medicine)が企画されました。このプログラムでは、各研究者の研究資金(Grant)申請に対する規制はされないが、各研究者からの申請を効果的に行うための助言や取りまとめの役目を果たすことが期待されています。認められた研究資金はまずは新たな幹細胞研究のための設備投資に割り当てられ、専用の研究練が建設される予定です。

参考文献:
Planning begins to pursue grants from Proposition 71 stem cell research funds

それに伴い、必然的に新たに研究者が働く機会が増え、研究補助技術者や大学院生の数も増えるでしょう。資金のあるところに人も集まるということです。

この様に、本法案を歓迎しているスタンフォード大学ですが、しかしながら彼らの頭を悩ませている点があります。それは、いかにして米国政府のヒト胚性幹細胞研究に対する厳しいガイドラインに抵触することなく、カリフォルニア州からの研究資金を使用して幹細胞研究を遂行するか、という現実的問題です。特にスタンフォード大学の様な大きな機関は、政府からの調査の対象になる可能性が高く、米国政府資金による研究と、カリフォルニア州のこの基金からの資金による研究を峻別する体制を確立する必要があります。このために、スタンフォード大学ではヒト胚性幹細胞研究委員会(Human Embryonic Stem Cell Research Panel)を設立し、ヒトES細胞に関わる全ての研究を監視する予定です(参考文献:同上)。

提案時から現在に至るまで、本法案に対してスタンフォード大学ほど力を入れてきている組織は他にはないでしょう。特に一ベンチャー企業では、これほどの体制を取ることは不可能であろうと思われます。しかしながら、長期的にはスタンフォード大学発の研究や研究者がベイエリアの企業に輩出され、IT 産業の世界的中心地であるシリコンバレーの形成の基となったスタンフォード大学が、今度は21世紀のバイオ産業の世界的中心地になる礎となり、ベイエリアの大いなる発展に寄与することは間違いないでしょう。

また、サンフランシスコが無料での提供を約束している San Francisco General Hospital内の約4,300m2の研究スペースに研究設備が整えられる事が期待され、それに伴い研究者だけでなく研究補助のための新たな雇用も促進されるでしょう。加えて、市内中心部にモスコーンセンターと言う4万人収容可能な巨大なコンベンションセンターを抱えるサンフランシスコが、より多くのバイオ医療に関する国際会議の開催地になることも想像に難くありません。

さて、この法案を歓迎する声が大きい一方、財政難の州の予算を使ってこの様な「未知の部分が多い」研究をやることに対する疑問の声があります。その疑問に対しては「だからこそ、州政府の様な公的組織が補助すべき」であると答えたいですね。そもそも営利企業は基本的に儲けることが前提となっているので、幹細胞研究の様な実用までに多額の資金と時間を必要とする研究に対しては、よほどの強力な資金的背景と成功への確信がなければ着手しないでしょう。いきおい短期的にリターンのある研究にのみ力を注ぐ傾向があります。また、儲けの出る可能性の少ない研究を避けるので、どうしても対象が偏りがちになります。例えば、患者数が多くて治療法が発見されれば大きな利益が見込めるような疾病に対してなら多額の研究費がつぎ込まれるが、そうでない稀な難病の治療法に対する研究はいきおい取り残されてしまいます。本来ならば、米国政府がこの様な基礎研究の補助をすべきなのですが、現ブッシュ政権がヒト胚性幹細胞研究に対して大きな制限を加えている現状に鑑み、カリフォルニア州のこの幹細胞研究推進法案は高く評価されるべきでしょう。また、例え30億ドルの州の予算を使ったとしても、カリフォルニア州が幹細胞研究の世界的中心になることによる恩恵は、決して小さい物ではないでしょう。スタンフォード大学の経済学者であるLaurence Baer氏らの試算によると、カリフォルニア州はこの投資により120%から236%のリターンを期待できるとの事です。しかしながら何よりも重要なことは、経済的リターンでは無く、人類に対する貢献だと思います。幹細胞研究を行わなかったならば救えなかったであろう命を救うことが可能になるのなら、その恩恵は計り知れないものがあります。自分の家族が、あるいは友人が、現代の医療では不治と見なされ座して死を待つしか無い病に冒されたときに、財政難云々などと言えるのでしょうか?もし、少しでも可能性があるのなら、その可能性を信じ、その実現に全力を傾けることに対して、異議を唱えることは誰にも出来ないでしょう。我々カリフォルニア州住民は、本法案が可決されたことを世界に誇ってもよいのではないでしょうか。それが、世界第5位の経済大国に匹敵する経済規模を持っているカリフォルニア州に科せられた責務であると思います。

ただ、本筋からは離れますが個人的に懸念される事が一点あります。それは、ドットコムバブルがはじけた後もベイエリアで続いている不動産バブルです。この30億ドルのカリフォルニア州法案の可決、その後のカリフォルニア再生医療研究所の本部がサンフランシスコに設立されたことから、ベイエリアへの企業や人の流入が促進され、これ以上の不動産の高騰を招かないかと言うことです。私は、この「ベイエリアの不動産バブル」の検証も近々行ってみたいと思っています。

最後に一言。今回カリフォルニア州が、非常に大きな潜在的可能性を秘める幹細胞研究に対して、30億ドル支援の法案を通したことをカリフォルニア州住民として誇りに思うと同時に、10年後(あるいはそれ以降に)には大きな花が咲き、病に悩む多くの患者に光明がもたらされる事を心から祈る次第です。

磁化ナノ粒子によるガンの超早期発見

シカゴにあるNorthwestern大学の若手教授である、Dr. Chad Mirkinが率いるBio/Nano-Materialグループが開発した磁化ナノ検出粒子技術がバイオ業界の注目を集めています。

以下に要点をかいつまんで説明します。Amine-Functionalized Magnetic Particleと呼ばれる、ナノメーター(10-9m) レベルの大きさの磁気粒子と、検知したい特定のタンパクに結合するモノクローナル抗体を合体させたMagnetic Microparticle Probeと彼らが名付けたナノ粒子を、血液あるいは体液と反応させると、抗体部分が検知したいタンパクと結合します。それらの結合物は磁気を持っていますので、磁石を使ってもれなく集めることが可能になります。これによって、極微量のタンパク質を効率的に検出することが可能になると言うわけです。彼らの技術では、30×10-18 molの極微量のタンパク質を同定できるとのことです。この通常操作に加えてPCR[*注]増幅をかければ、さらに一桁感度が上がり、3×10-18 molの極微量のタンパク質の同定が可能になります。これは、現在一般に利用されている分析法での限界値である3×10-12 molのなんと100万倍も感度が高いことになります。

この技術を応用すれば、磁化ナノ粒子を検体の血液と混合させ磁場を掛けることによって、これまでの試験方法では検出できなかった極微量の疾病マーカータンパクを同定しうることが可能になります。現在のところ、HIV、ガン、BSE、アルツハイマー病などの疾病の超早期診断が可能になるのではと期待されています。詳しくは、Dr. Chad Mirkinの研究室のホームページ
http://www.chem.northwestern.edu/~mkngrp/BioNanomaterials2003rev1.htm および、以下の参考文献を参照してください。

参考文献: Nam, J.-M.; Thaxton, C. S.; Mirkin, C. A. Nanoparticle-based bio-bar codes for the ultrasensitive detection of proteins, Science 2003, 301, 1884-1886.

[*注]PCR — ポリメラーゼ連鎖反応:微量なDNA溶液の中から、自分の望んだ特定のDNA断片(数百から数千塩基対)だけを選択的に増幅させることができる技術(出典:フリー百科事典『ウィキペディア (Wikipedia)』)