Archive for the ‘書評’ Category.

特許の知識 [第8版]

知財・特許に関わる人の座右の書、かつ書物の理想型

知財・特許の基礎概念から始まり、特許法およびその解釈、さらには重要な特許訴訟などもカバーし、内容は網羅的にしてかつ詳細、知財・特許に関わる人ならまず本書を座右におくべきでしょう。索引も英語・日本語共に充実しており辞書的な利用も可能です。私にとっては単なる特許解説書を超越し、書物を著す際の一つの規範にもなっています。書物としての一つの理想型でもあります。

ビッグ・クエスチョンズ―神はいるのか、いないのか 科学が解き明かす12の大疑問

過去数千年にわたって多くの哲学者が問い続けてきた疑問(「時間とは」「存在とは」「宇宙の始まりのその前は」「神はいるのか」「心とは」等々)を12の章に分けて、現代の科学がどこまで回答を与えているのかを一般の読者にも分かりやすく論じています。物理学、認知科学、進化生物学などの最新の成果を基に、これらの疑問に組して行く著者の試みは、読む者の知的好奇心をかき立てると言う意味ではかなりの程度まで成功していると思います。著者はさすがに理論物理学者だけあって超ひも理論やM理論などの最新の物理理論を駆使する一方、西洋哲学、認知科学および分子生物学などの知見も加味しての議論を進めて行くあたりの著者の博識には脱帽です。

ただ各章で論じられている疑問とそれに対する議論はその各々だけでもゆうに1冊の本を必要とするくらいの深い内容ですので、徹底的議論を望む読者には不満が残るかもしれません。また、最新の科学の知見をもってしても答えには限界があることに落胆してしまう箇所もあるかもしれません。参考文献がいっさい引用されていない点も残念です。

訳文は日本語として良くこなれており非常に読みやすく、訳者の日本語表現の力量をうかがわせますが、残念ながら科学の専門家でない事から来る誤訳あるいは適切でない表現が何か所があります。例えば、291ページの「電子はすべて負の電荷を帯び、原子核に引き寄せられているが、同時に両者は互いに反発しあっている」の最後の部分は「同時に電子同士は互いに反発しあっている」とするべきです。

最後になりますが、著者が読者に最も伝えたかった「疑問を持つこと」の重要さは十分に読者に伝わると思います。