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乳ガン診断におけるデジタル・マンモグラムの有用性が判明

米国の国立ガン研究所 (NCI: National Cancer Institute) 指導の元、新しい技術であるデジタル・マンモグラム (注*) と従来のフィルム・マンモグラムとの乳ガン発見に対する有効性を比較した大規模試験の中間結果が発表されました。

これまでデジタル・マンモグラムには、

  • 放射線被爆量がフィルム・マンモグラムに比べて少ない
  • 診断医が簡単な操作でデジタル画像を調節することによって組織の微少な違いを見分けることが可能になる
  • 撮影された乳房画像データがデジタルデータなのでインターネットを通しての遠隔診断に簡単に応用できる
  • 同一患者の過去データとの比較が簡単
  • コンピュータ支援乳ガン診断システムを簡単に日常検診のワークフローに組み込める

等の技術的利点があることは共通の認識でしたが、臨床的にはその利点が明確ではありませんでした。

デジタル・マンモグラム臨床的な利点 (あるいは欠点) を明確にするために2001年9月から北米の33の医療施設において5万人弱の女性を対象に実施されたDigital Mammographic Imaging Screening Trial (DMIST) と呼ばれるこの大規模試験データから、

  • 50歳未満の女性 (乳房密度によらず)
  • 乳房密度の高い女性 (年齢によらず)
  • 閉経前あるいは閉経前後の女性

の3グループのいずれかに属する女性は、フィルムよりもデジタル・マンモグラムの方が、乳ガン発見に対してより有効であることを示す結果が得られました。逆にこれらのいずれにも属さない女性に対しては、両者に臨床上の診断効率の差は見られませんでした。

この結果は以下の様に解釈されます。一般的に、乳房組織が若い、あるいは乳房密度の高い女性では、ガン組織と乳房の通常組織の画像上の濃淡や外見の違いが判別しにくいのですが、コントラストなどを最適化できるデジタル・マンモグラムを使えば、それらの微妙な違いを強調し判別しやすくすることが可能になります。それ故、上記の様なグループに属する女性では、診断効率があがるのであろうと思われます。

米国では、年間約21万人の女性が乳ガンと診断され、約4万人の女性が乳ガンが原因で亡くなっているという現状があります。女性にとって乳ガンは、皮膚ガンに次いで発症率の高いガンであり、ガン死因の第2位に挙げられています。それ故、乳ガンの早期発見が医療界に於いて火急の案件となっており、本試験の結果に後押しされて、今後は全てのマンモグラム・システムがデジタル・マンモグラムに置き換わっていくことは時間の問題でしょう(ただし、現在のところ北米におけるデジタル・マンモグラムの普及率はまだ8%と低率ですが)。特に乳房密度の高い日本人女性にとってデジタル・マンモグラムの恩恵は欧米人以上に大きいと思われますので、日本での早期の普及を期待したいところです。

この中間結果は、New England Journal of Medicineの2005年9月16日号オンライン版、およびAmerican College of Radiology Imaging Network (ACRIN) の会議にて発表されました。詳細はDMISTのホームページを参照。

[注*] デジタル・マンモグラムとは、乳房のX線画像をレントゲンフィルムに焼き付けるのでは無く、直接コンピュータにデジタル画像データとして取り込むシステムである。今回のDMISTでは、GEメディカルシステム社、富士メディカルシステム社、フィシャー・イメージング社、ホロジック・デジタル社のシステムが使用された。

血中ガン細胞濃度を測定することによる乳ガン診断

テキサス大学のM.D.アンダーソン癌センターのMassimo Cristofanilli医師を中心とするグループが、遠隔転移を持つ乳ガン患者177人を対象に行った二重盲検試験から、血中がん細胞濃度の高い患者のガン進行率が高く、生存率が低いことを証明するデータを得たとの報告を2004年8月19日号のThe New England Journal of Medicineに発表しました。ちなみに、本発表はかなり注目度が高く、ロイター、共同通信(AP)、Detroit Free Press、The Global and Mail、WebMD、Xinhuanet News(北京)等でも一斉に取り上げられています。

彼らの主張によると、遠隔転移を持つ乳ガン患者の内、血中ガン細胞数が7.5ml中5個未満の患者と 5個以上の患者では、有意に生存率が違うと言うことです。具体的には、前者の患者グループの無進行生存月数の中央値が7ヶ月であるのに対して、後者の患者グループではたったの2.7ヶ月です。この結果は、血中にガン細胞が多く流れ込んでいる患者の予後は悪いというごく自然な予測と一致します。

さて、この事実に加えて、本試験が持つ重要な意義は、血中の微量のガン細胞が測定できる技術が開発されているという事実にあると思います。この技術は、米国Veridex社が開発したCellSearch Systemと呼ばれる最新の血中ガン細胞濃度測定法です。今回は乳がんを対象に生存率の調査が行われましたが、本技術は、結腸がん、肺がん、前立腺がんなどの他のガンの予後診断・予測にも応用が考えられています。さらに、単に予後診断だけではなく、簡易で非侵襲的な治療効果の判定法にもなりますし、より微量のガン細胞が測定できるようになれば、スクリーニングとしてのがん診断にも応用できる可能性があります。本測定法を、ガン遺伝子診断や発現タンパク質診断などと組み合わせれば、簡便でより確度の高いガンの早期診断法への道が開けてくるのではないでしょうか。

しかしながら、多くの医師や研究者によるこうした数々努力にも拘わらず、2004年には米国だけでもガンによって約56万人もの犠牲者が出ると予測されています (M.D.アンダーソン癌センター、Clifton Leaf教授言)。この犠牲者数は、1971年に米国ガン法(National Cancer Act)が制定された当時と比べても実はほとんど減少していないのです。ガンに関する人類の知見はこの30年で確かに飛躍的に深まってはいるものの、ガンの発現の想像以上の複雑さが、ガンの根本治療の妨げになっているように思われます。その上、多くの研究者は細分化された特定のガンの個別の研究にのみ専念する傾向があり、生体内で発現するガンを総体として見ることを怠っているのではないでしょうか。

最後は表題から少々脱線してしまいましたが、がん研究・医療に携わるすべての者が、個々の成果に一喜一憂することなく、「実際に人の命を守る」という大前提を常に忘れずに、着実にがん研究を推進させていってもらいたいものです。