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2型糖尿病患者に対する低グリセミック指数食の効用

少々旧聞に属しますが、米国医学雑誌JAMA(Journal of American Medical Association)の2008年12月17日号で報告された、2型糖尿病患者に対する低グリセミック指数食と高穀物繊維食の効果を比較した臨床試験を紹介します(”Effect of a Low-Glycemic Index or a High-Cereal Fiber Diet on Type 2 Diabetes – Randomized Trial“, D.J.A. Jenkins et. al.)。

カナダのトロント大学のDavid J. A. Jenkins医師らが中心となり、過去1〜2ヶ月の血糖値の指標とされるヘモグロビンA1Cが6.5%から8.0%の範囲にある2型糖尿病患者に対して、低グリセミック指数食グループと、高穀物繊維食グループの2つのグループに無作為に分け、治療方針を評価する研究(Intention-to-treat analysis)が実施されました。2,200人のボランティアの応募者から、ヘモグロビンA1C値に加えて、年齢、性別、BMIなどを考慮して最終的に210人が選ばれ、本臨床試験に参加することになりました。本研究では、各グループの患者にに対して規定の食事を6ヶ月間続けてもらい、第1指標としてのヘモグロビンA1C、第2指標としての空腹時血糖値と心血管イベントの主要リスクファクター、およびC反応性タンパク、体重、BMIなどが4週間毎に24週間測定されました。

結果
低グリセミック指数食グループではヘモグロビンA1Cが0.5±0.11ポイント減少、HDLコレステロール値が1.7±0.9mg/dL増加と言う結果が得られました(以下、±エラーはすべて95%信頼区間)。一方、高穀物繊維食グループではHbA1cは0.18±0.11ポイント減少、HDLコレステロール値は0.2±0.7mg/dL減少(ただし、後者はエラーが大きく実際には有意な変化は無しと捉えるべきでしょう)と言う結果でした。

ここで注目しておきたいデータが、今回の研究の主要指標では無いのですが、近年、心血管イベントの強力なマーカーとして注目されているC反応性タンパク(C-Reactive Protein)の変化です。

炎症マーカーであるこのC反応性タンパクが、低グリセミック指数食グループでは4.6mg/Lから3.0mg/Lに減少(1.6±1.3mg/dL, 35%の減少)、高穀物繊維食グループでも4.6mg/dLから2.8mg/dLに減少(1.8+2.1-2.2mg/L, 39%の減少)と、共に減少している点です(ただし、高穀物繊維食グループではエラーが大きく有意とは言えませんが)。

まとめますと、今回の2型糖尿病患者に対しては、低グリセミック指数食の方が高穀物繊維食より効果的に、ヘモグロビンA1Cを下げ、HDLコレステロール値を上げ、C反応性タンパクを下げると言うことです。つまり、より良い血糖値コントロールと同時に心血管イベントのリスクを下げる効果が得られる(可能性がある)と言うことです。

低グリセミック指数食は、そもそもの定義からして同じ炭水化物でも血糖値上昇の度合いが低い食事ですから、その機序からしてヘモグロビンA1Cを下げる効果があることはごく自然に理解できますが、HDLコレステロール値を上げ、C反応性タンパクを下げる効果が見られたことは注目に値します。実は、低グリセミック指数食が、HDLコレステロール値を上げ [Brand-Miller J et.al. Diabetes Care. 2003;26(8):2261-2267], [Ford ES et.al. Arch Intern Med. 2001;161(4):572-576]、C反応性タンパクを下げる効果 [Liu S et.al. Am J Clin Nutr. 2002;75(3):492-498], [Wolever TMS et.al. Am J Clin Nutr. 2008;87(1):114-125] が見られることは以前の研究でも報告されていました。

いづれにせよ、2型糖尿病患者にとって低グリセミック指数食事により、より良い血糖値コントロールと同時に心血管イベントのリスクを下げる効果が得られる(可能性がある)と言うことは朗報であることは間違いないでしょう。

さて、ここまでが現在の医学研究において多くの研究者が行っている統計処理データだけを見て得られる結論ですが、私としてはその先を研究したいと言う気持ちがわき起こってきます。それを以下で説明します。

考察
まず、統計処理する前の一人一人の患者のデータを基に、A: 大きな変化、B: 平均に近い変化、あるいは、C: ほとんど変化の見られない患者のグループ、の3グループに分け、さらに詳細なデータ解析を行えばどのような因子がその変化の有る無しと相関関係があるかを知ることができると期待できます。そして相関関係の見つかった因子間で、因果関係を究明する研究を立案するのです。ただその際に、重要と思われる各患者の遺伝子データも取っておく必要があります。この実現の障壁になるのが、集団統計処理データに立脚しすぎてしまっている現代医学界における固定観念と、現在の技術ではまだまだ高価な遺伝子データ取得費用の2つでしょう。後者は技術的問題ですので、技術さえ進歩すれば解決できる問題ですのでここでは特に議論しませんが、前者は「集団統計処理データに始まり、集団統計処理データに終わる」との固定観念に支配されている現代医療界の心理的かつ体制的問題ですので、その打破には巨大なエネルギーが必要です。私の力は微力ですが、提言を繰り返すことによりそのエネルギーのほんの一旦だけでも担えればと思っております。

ただ単なる臨床試験に留まるのではなく、その臨床試験を、得られた結果に基づき生命現象の機序を解明するさらなる研究のきっかけとしてとらえる事により、一つの臨床試験がより実りある多くの研究に繋がる可能性があるのです。

用語解説

  • グリセミック指数
    食品の炭水化物50グラムを摂取した際の血糖値上昇の度合いを、ブドウ糖を100とした場合の相対値で表すとされる。つまりグリセミック指数が低ければ低いほど、食後の血糖値の上昇を抑えられます。

  • 低グリセミック指数食
    ふすま(小麦を粉にする時にできる皮のくず:wheat bran)入りのライ麦の黒パン、quinoa(キノア:アンデス地方で栽培される雑穀で、他の雑穀に比べてタンパク質と不飽和脂肪酸を多く含み、糖質が少ない)、flaxseed(アマニ)、オートミール、パスタ、豆類、グリーンピース、レンズ豆、ナッツ類など
  • 高穀物繊維食
    無精白の全粒パン、全粒シリアル、玄米、皮つきのジャガイモなど
  • ヘモグロビンA1C
    HbA1c – glycated hemoglobin A1c:過去1〜2ヶ月の血糖値の指標とされる。HbA1cが6.5%以上の場合、糖尿病と診断する。

参考文献